従業員 各位
日頃のご精勤に心より感謝申し上げます。
5月度の衛生委員会の資料になります。
5月度のテーマは
「五月病」です。
皆様に置かれましては、是非とも健康に留意いただき、
業務に努めていただきたいと考えております。
ご安全に!!
令和3年5月度
衛生委員会資料
産業医 北村 香奈
また緊急事態宣言が発令されました。またか、と思って気持ちが前回より緩みがちかもしれませんが、引き締めて早く緊急事態を脱却できるようにしたいものです。
そんな中、今回は、この時期よく言われる、「五月病」についてお伝えしたいと思います。緊急事態宣言も一つの環境変化ですが、4、5月の職場の環境変化が起きやすい時期のこの病気について知っておいてもらいたいと思います。
例年、5月の連休明けに「倦怠感」「不眠」「不安・憂鬱」「集中力の低下」といった症状を訴える人が現れます。こういった状態をよく「5月病」と呼びますね。5月病という言葉自体は正式な医学用語ではなく、医学的には「適応障害」と考えられています。4月に新生活を始めた学生や職場環境の変わった社会人が、新たな環境にうまく適応することができないためにストレスを抱え、そのストレスがもとになって出てきた症状と考えます。
うつ病との区別は難しいのですが、適応障害の場合にはストレスの原因(仕事、人間関係等)から離れると症状が急激に改善すると考えられています。うつ病はストレスが直接はない場所でも気分が落ち込んだままです。
5月病と言われる適応障害の状態は、人口の1%程度の人が陥っているとされています。誰しもが適応障害を起こす可能性を秘めていますが、ストレスとの付き合い方が苦手なタイプの人に多いと考えられています。
・悩みなどを周りに相談せず一人で抱え込みやすい人
・そもそもストレスに対処した経験に乏しい人
・責任感が強く真面目で融通が利きにくい人
自分の周りにこのようなタイプの人がいて、これまでこなせていた仕事でミスが目立ったり、遅刻が増えてきたい、なんとなく調子が悪そうだったりする場合には、気にかけて声をかけてあげましょう。本人もどうしていいかわからず誰にも言い出せずに苦しんでいることも多いからです。頑張ればなんとかなると思って無理している人も多く、余計に調子が悪くなってしまいます。
「ちょっと疲れがたまっているだけ」と、放置するとどのようなリスクがあるのでしょうか? 「職場に慣れてくれば自然と回復する」などと軽く見ていてはいけません!
適切な対応を行わずに適応障害を放置すると、うつ病に移行することが知られています。適応障害と診断された方の40%以上が5年後にはうつ病と診断されているとの報告もあります。(出典:厚生労働省 みんなのメンタルヘルス)
適応障害の状態でも判断力や能率は低下しますが、うつ病に移行するとそれが長期に渡ることになります。人手不足が叫ばれる今の時代、従業員の能力低下は企業にとっても大きな損失につながります。また、ブラック企業等が厳しく批判される現代においては、対応を誤れば企業にとって貴重な人材を失うだけでなく、経営者も善管注意義務(善良な管理者の注意義務)違反に問われかねません。したがって、「たかが5月病」と軽く考えて見過ごすのではなく、企業のリスク管理の一環としてしっかりとケアすることが大切です。
ですから、心の問題はなかなか相談しにくいかもしれませんが、いつもと違ってやる気が出ないな、眠れないな、などの症状を自覚し、仕事に支障が出そうな時は、早めに上司に相談しましょう。上司はそれに対して対応する義務があるのです。
企業の義務
5月病はストレスによってもたらされます。したがって5月病に苦しむ従業員のストレスを軽減してあげることができれば予防あるいは治療できると言えるでしょう。しかし、ストレスの原因となるものは人それぞれで画一的に対応をするのは困難です。したがって5月病の予防・治療の第一歩となるのは、労務担当者や管理職、異変に気付いた同僚がその従業員とのコミュニケーションを図り、ストレスが何かをまず理解することです。
ストレスの原因が特定できれば環境調整が必要
その結果、ストレスの原因となるものを特定できたならば、会社としてできる範囲での環境を調整してあげて、ストレスの原因を少しでも軽減してあげることが重要です。場合によっては部署の異動や業務フローの見直しのような対応が必要になるかもしれません。適応障害の場合はストレスの原因が遠ざかっただけで症状が改善することが多いため環境調整は非常に有効な手段のひとつと言えるでしょう。
ストレスが本人の認知の問題であれば改善のアドバイスを
また、従業員とのコミュニケーションの結果、5月病に苦しむ従業員のストレスが本人の受け止め方(認知)の問題によって起きていることがわかった場合は、受け止め方の改善を行うようにアドバイスします。受け止め方の改善を通してストレスを軽減しようとするアプローチは、精神科の領域では認知行動療法と呼ばれて広く行われており、効果が期待できる対処法です。ただ、一朝一夕にできるものでもないので、認知行動療法をちゃんと指導してくれる心療内科医やカウンセラーにかかることが必要なので、本人に受診を勧めます。
本人の対策 よい意味での「いい加減さ」も必要
前述の5月病になりやすい人の例として挙げた中でも見られるように、適応障害に陥りやすい人の中には真面目であるが故に物事の見方に柔軟性が欠けてしまい、完璧にやろうとしすぎてストレスを抱える人が多くいます。さらに変化の激しい現代においては思うように物事が進むことのほうが少なく、自分の中の「こうあるべき」という考え方に一致しないことに納得ができずストレスを抱えることも少なくありません。だからこそ、よい意味での「いい加減さ」のようなものも必要です。ストレスを抱えそうな人には日頃から周囲が働きかけ、自分の経験なども交えて物事の様々な考え方や見方があることを伝えてあげるとストレスへの対処方法を学ぶいい機会になるでしょう。
ストレスを自覚したら仕事から離れる時間も作ろう
また、ストレスを自覚したら、仕事から離れ、趣味や運動の時間を持つことや、十分な睡眠や休息を取ることもストレスの軽減に効果的です。
仕事に熱中している人は仕事から離れることに抵抗を感じるかもしれません。特に新入社員の方は、はじめが肝腎、3年は頑張りどき、などと思って無理をしがちです。(それを推奨するブラックな企業も結構あります)。そんな古い考えは捨てて、仕事でより十分に能力を発揮したいのであれば思い切って休息を取ることも大事、オンオフのコントロールがうまくできることが一人前の社会人、と思っていただきたいです。ストレスコントロールも仕事の一部なのです。
まとめ
5月病=適応障害について、みなさん、ご理解いただけたでしょうか。
ストレスが明確にあって、気分の落ち込みが起きる病気、ということでしたが、新年度の変化は誰にでも多少のストレスとして感じられます。(変化は良い変化でもストレスになるのです)
誰に起きてもおかしくない状態である、ということを意識していただき、心配だな、と思ったら早めに相談。また、周りに心配だな、と思う方がいらっしゃたら、まずは話を聴く、アドバイスできそうならする、対応が難しそうなら産業医にご相談いただく、ということを頭に置いておいていただければと思います。