従業員 各位
日頃のご精勤に心より感謝申し上げます。
6月度の衛生委員会の資料になります。
6月度のテーマは「スメルハラスメントについて」です。
皆様に置かれましては、是非とも健康に留意いただき、
業務に努めていただきたいと考えております。
ご安全に!!
2024年6月度
衛生委員会資料
産業医 北村 香奈
臭いに関して他人に不快感を与えることをあらわす「スメルハラスメント」、略して「スメハラ」という言葉は、すっかり社会に定着していますが、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行して以来、次第にマスクを着用しない人が増え、ソーシャルディスタンス等の防止措置も緩和され、これにより、数年間気づかなかった他人のにおいが気になるようになったという人も多いようです。
原因となるにおいは、体臭、口臭、たばこ、飲食物、化粧品、洗濯洗剤などさまざまですが、どのような種類にせよ、においを発している側は自覚がないままに周囲にストレスや健康被害を与えている場合が多くあります。
香水や柔軟仕上げ剤など、使用している本人にとっては「いい香り」でも、周囲の人がみな同じように感じているとは限りません。消費者庁が、香り付き製品を使用する際に、周囲の人々への配慮を求めるポスターを公開しているくらい、重要課題となっています。そこで、今回は匂いの職場への影響と健康被害についてお伝えしたいと思います。
「香害」はなぜ問題なのか?
においの感じ方に個人差があることと、においを発している本人に自覚がないことが対策を困難にしているひとつの原因といえます。
また、においというのは非常にデリケートな問題で、気になっても指摘するのが難しいものです。指摘のしかたによっては他人の尊厳を大きく傷つけることになり、セクハラ、人権侵害と受け取られる可能性もあります。このことも対策を難しくしている原因といえます。
職場でのにおいの問題を放置しない
上記のように、困難な課題ではあるのですが、長い時間を過ごす職場で不快なにおいが漂っていたら、大きなストレスになるであろうことは想像できますし、なんとかしなくてはいけません。
個人の価値観の多様化に伴い、ライフスタイルも多様化し、職場での「常識」や「暗黙の了解」が通用しなくなっている傾向にあります。
それは、においに関しても例外ではありません。多種多様な文化をバックグラウンドに持つ人が集まることで、自分とは異質なにおいを不快に感じる瞬間もあるでしょう。
「職場には色々な人がいるから、しかたがない」
「手の打ちようがない」
という言葉で片付けてしまわず、職場の人間関係や業務効率の悪化につながる恐れもあるので、においに関する相談があった場合、会社として放置しないようにしたいものです。
以下に具体的な匂いによる職場への影響を示します。
悪影響1|周囲の同僚が体調を崩す
においは五感の一つである嗅覚に訴えるものであるため、人間の健康に大きな影響を及ぼす可能性があります。
不快なにおいの中で長時間過ごさざるを得ないと、吐き気や気持ち悪さを感じることもありますし、精神的にも大きなストレスになります。その結果、体調を崩して休みがちになったり、出社することに抵抗感を覚えたりする従業員が出てくるかもしれません。
においによる健康被害によって従業員が離脱、となると、安全配慮義務違反(労働契約法5条)や使用者責任(民法715条1項)の問題も出てきます。
悪影響2|部署全体のパフォーマンスが低下する
不快なにおいが職場に立ち込めていると、その場にいる従業員の集中力が低下する可能性が高くなります。不快なにおいから逃げるための離席が増えたり、思考が満足に働かなかったりした結果、業務のパフォーマンスが大幅に悪化してしまうおそれがあります。
悪影響3|チームワークや人間関係が悪化する
会社の業務を円滑に遂行するには、チームワークや良好な人間関係が欠かせません。
しかし、不快なにおいを発している従業員に対して上司や同僚が嫌悪感を抱くことも事実としてあるでしょう。その結果、部署内のチームワークや人間関係が乱れてしまう可能性が高くなります。
せっかく働きやすい職場づくりを目指しても、においが原因でそれが壊れてしまうおそれがあります。会社としては、良好な職場環境を維持するためにも、においによる人間関係悪化の解消に努める必要があります。
次に、においによる健康被害の具体例を示します。
【事例1】
柔軟仕上げ剤を使用し、室内干ししたところ、においがきつく、妻と2人ともせきが出るようになった。柔軟仕上げ剤を使用したタオルで顔を拭くとせきが止まらなくなった。メーカーに連絡すると、柔軟仕上げ剤を持参して医師の診察を受けるように言われたのでそのとおりにした。2人共アレルギーの反応が低かったため、原因不明とのことで、複数の薬を処方してもらった。
【事例2】
隣人の洗濯物のにおいがきつ過ぎて頭痛や吐き気があり、窓を開けられなく換気扇も回せない。柔軟仕上げ剤のにおいではないかと思う。医師の診察は受けていないが、家族3人全員同じような症状で今まで特定の物質にアレルギーがあると言われたことはない。
これらのように原因物質は想定されても病院でも対応が難しく、治療が困難になる場合も多いので、症状が出るような害になる前に対策を打ちたいものです。
以下、アレルギー科の医師の話です。
「ここ3年ぐらい特に香りが長持ちするとか、香りの強さを強調する製品が売り出されるようになってから相談が増えています。学校や職場、隣近所で柔軟剤などの香りを感じて、頭が痛くなり、日常生活が困難になってしまうという患者さんが多くいます。
症状は、頭痛、倦怠感、吐き気、動悸(どうき)など多岐にわたり、個人差も大きいのが特徴です。
また、症状が重症化すると、「化学物質過敏症」という病気を発症してしまう人もいるといいます。
「化学物質過敏症」は、たばこの煙や殺虫剤、印刷物のインクなど、あらゆる化学物質に反応してしまうという深刻な病気です。
香りを感知する嗅覚は人間にとって生命を維持する上で重要な役割を果たしていて、相談が増えていることに危機感を抱いています。
嗅覚は原始的な感覚で、身を守るアラーム的な役割があると思います。ガスの臭いを感じたらその場から離れる、食べ物から腐った臭いがしたら食べてはいけないなどです。その嗅覚で大量に人工的な香りを感じ続けているのが現代社会です。相談に来る患者さんは、人間の生命維持装置のアラームが鳴っているのではないかと考えています。」
このように医師が警鐘を鳴らす香害について、頭痛との関連でもう少し検討してみましょう。
香害の実態
2000年代半ばより香りの強い洗濯洗剤や柔軟剤が増加していますが、年々、それら製品による体の不調を訴える相談が増えています。
また、20代から50代の女性を対象に行なわれた「香り付き洗濯洗剤に関する調査(2016年シャボン玉石けん株式会社調べhttps://www.shabon.com/kougai/)」では、香り付きの洗濯洗剤を使用している人が88%、人工的な香りを嗅いで、頭痛やめまい、吐き気などの体調不良を起こす香害が問題になっているのを聞いたことがある人が51%、人工的な香料のにおいで、頭痛やめまい、吐き気、関節痛など体調不良になったことがある人が49%と報告されています。
におい誘発性頭痛
日常生活で頭痛が引き起こされるきっかけは様々ですが、その中に臭気やにおいも含まれています。実際、どのようなにおいが頭痛のきっかけになっているのでしょうか。
2016年に米国頭痛学会誌に掲載された論文によると、片頭痛患者さんの90%が、においで頭痛が誘発されており、その原因の内訳は、香水が95%、洗剤や柔軟剤が81%、たばこが71%、自動車内のにおいが70%で、次いでゴム、革製品、コーヒー、魚のにおいであったと報告されています。また、片頭痛発作中には、においに対して敏感になってしまうことがありますが、におい過敏の対象で多かったものは、香水が88%、洗剤や柔軟剤が70%、たばこが68%、排気ガスが62%であったと同じ論文で報告されています。このように、一般的に良い香りとされているものの方が頭痛を誘発し、また頭痛中のにおい過敏の原因として影響を与えることが多かったようです。
自分の「におい」点検を
国内では10人に約1人は片頭痛もちであるとされていますが、片頭痛は頭痛が起きてしまうと嘔吐したり、寝込んでしまったりと日常生活に支障をきたすことが多い病気です。片頭痛が、特ににおいとの関係が密接であることをご理解いただけたなら、自分のにおいについて今一度、点検してみてください。
特に湿度や気温が高くなる季節、体臭など周りを不快な思いをさせるにおいについて意識し、ケアをすることは社会人としてのマナーです。しかし、今回ご紹介したように、良かれと思って使っている香水や洗剤、柔軟剤が、実は香害の原因になっていることもあります。
皆さんは大丈夫でしょうか?この機会に、ご自身の「においの使い方」を再度点検してみていただければと思います。