従業員 各位
日頃のご精勤に心より感謝申し上げます。
4月度の衛生委員会の資料になります。
4月度のテーマは「高血圧について」です。
皆様に置かれましては、是非とも健康に留意いただき、
業務に努めていただきたいと考えております。
ご安全に!!
2024年4月度
衛生委員会資料
産業医 北村 香奈
今回は健診での重要ポイントとなる?高血圧についてお伝えしたいと思います。
誰にとって重要か、というと、もちろんその結果が出たご本人です。サイレントキラーとも言われる高血圧は自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに体の健康が侵されることになるので、まず気づくことが大事なのです。また、会社もそのような状態である社員を放置して働かせておくと、安全配慮義務違反になるので、高血圧を指摘された社員には改善を促す指導や就労上の配慮が必要になってきます。
なんらかの疾患のせいで2次的に高血圧になる方はその元の疾患の治療が必要ですが、ほとんどの方は生活習慣の見直しで改善が期待できます。ですので、高血圧についてよく理解し、高血圧にならないような生活を目指していただきたいと思います。
高血圧とは
【基準①】測定環境に応じた基準値
緊張や不安を感じると、血圧が高くなるため、測定環境に応じて異なる基準値が設定されています。測定環境は、病院で計測する診察室血圧と自宅で計測する家庭血圧に分けられます。診察室血圧は140/90mmHg以上、家庭血圧は135/85mmHg以上が高血圧の基準値です。
【基準②】合併症に応じた降圧目標
血圧の問題と同時に、どのような合併症があるかによって、基準値が異なります。日本高血圧学会が発行するガイドラインでは、以下のように疾患に応じて降圧目標が設定されています。
糖尿病患者:家庭血圧125/75mmHg未満
蛋白尿陽性の慢性腎臓病患者:家庭血圧125/75mmHg未満
脳血管・冠動脈疾患患者:家庭血圧125/75mmHg未満
【基準③】仮面高血圧
・早朝高血圧
診察室血圧が140/90mmHg以下でも、家庭で測定した早朝の血圧が平均して135/85mmHg以上を早朝高血圧という。夜間高血圧からの移行と朝方に急激に上昇するサージタイプがある。(軽度のモーニングサージは生理現象)
・夜間高血圧
夜間の平均血圧が120/70mmHg以上の場合を夜間高血圧という。夜間は通常血圧が下がるが、夜間高血圧は下がらないため血管の柔軟性が夜間に回復できない。
・昼間高血圧
診察室血圧が正常でも、職場や家庭でストレス下にある時の平均血圧が135/85mmHg以上。
早朝・夜間高血圧は、脳・心臓・腎臓など全ての脳心血管病リスクが高く、診察室高血圧よりも臓器障害が進行しており、脳卒中リスクや後期高齢者の介護リスクが高いという報告があります。
そんな高血圧は重大な病気の引き金になりますが、具体的にはどのような病気を引き起こすのでしょうか。
【疾患①】脳卒中・心疾患
血圧が高いと血管に負担をかけ続けるため、脳卒中や心疾患の原因になることがあります。血管の壁が傷つき、血の塊ができやすくなり、血管が詰まってしまうのです。心臓の血管が詰まると心筋梗塞、脳の血管が詰まると脳梗塞を引き起こします。
また、血管の柔軟性が低下する動脈硬化を引き起こすため、血管が狭くなり血管がほぼ詰まりかけている状態が原因で胸痛などが生じる狭心症の原因になることもあります。
年齢別では、高血圧での脳心血管病の死亡リスクが高いのは40~64歳までの中年層です。40歳を超えて血圧が高い状態が続いている場合は、注意が必要です。
【疾患②】慢性腎臓病(CKD)
腎臓病も高血圧との関連が深い病気の1つです。高血圧になると腎機能が低下し、塩分のミネラルであるナトリウムの体内での調整機能が乱れてしまいます。その結果、余分な水分や塩分を排出できなくなり、血液量が増えて血圧が上昇するといった悪循環が生じてしまいます。
【疾患③】脳血管性認知症
脳血管性認知症とは、脳梗塞や脳出血によって起こる認知症です。血管に障害が生じ、酸素が行き渡らないことで脳細胞が死滅し、認知症を発症してしまいます。
高血圧は、動脈硬化により脳梗塞や脳出血を引き起こしやすくなるため、脳血管性認知症の発症リスクを高めます。突然発症することが特徴で、治療が落ち着いたときに発症するケースもあります。脳梗塞や脳出血がみられた場合は治療後も注意することが大切です。
高血圧になると危険、ということは理解していただけたでしょうか。
でも高血圧にならないようにどうやって予防すればいいの?となりますね。高血圧は糖尿病や脂質異常と並んで生活習慣病と言われるものですので、生活習慣を見直すことが必要です。
生活習慣といえば、食事、運動、睡眠です。
①食事のポイント(生活習慣における食事に関する修正項目)
- 減塩(6g/日未満)(以下に参考図表)
- 野菜・果物の積極的摂取※
- コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える
- 魚(魚油)の積極的摂取
- 減量(適正体重維持)のための適切なカロリー摂取
- 節酒(エタノールで男性20-30mL/日以下女性10-20mL/日以下)
②肥満を解消(適正体重の維持)
肥満解消による降圧効果は確立されており、4~5kgの減量で収縮期血圧4mmHg程度の低下が期待できます)。肥満を伴う高血圧患者ではまず減量をお勧めしますが、急激な減量は体に害を及ぼすこともありますので、長期計画のもとに無理のない減量をしていきましょう。
③質の良い睡眠を
睡眠障害によって睡眠中に何度も覚醒していると、眠りの質はきわめて悪くなります。 つまり、目は開いてなくとも脳が覚醒していることで交感神経が優位となり、日中同様の血圧の高さを示してしまうのです。これが高血圧を招くことになります。
また、高血圧は、睡眠時間が6時間未満の方で発症頻度が高く、8時間以上を超える場合も頻度が高いことが報告されています。 睡眠時に一定回以上呼吸停止がおこる睡眠時無呼吸症候群と高血圧との関連も指摘されており、睡眠時間と共に睡眠の質と血圧の関連は大きいので、睡眠で疲れが取れた感じがしない、という方は睡眠対策もぜひ検討しましょう。
次に、高血圧対策について、職場でできることについて考えていきます。
職場高血圧に注意する
健康診断の結果は、診察室血圧を計測しているにすぎず、仕事のストレスで血圧が上がる職場高血圧を見逃す可能性があります。職場高血圧を発見するには、自動血圧計を社内に設置し、計測を習慣づけていくことが有効です。
また、アプリや紙の血圧手帳に計測した血圧を記載することで、血圧への意識を持続的にさらに高めることも重要です。血圧手帳については、日本高血圧協会の以下のHPでサンプルが配布されているので、活用してみてください。参考:日本高血圧協会「血圧手帳」
参考:血圧の正しい測り方
血圧は1日の中でも変化するので毎日決まった時間に測定しましょう。 基本は起床後と就寝前の2回。 朝は起きて1時間以内、トイレを済ませ、食事や薬を飲む前に測ります。ですが、職場で決まった時間に測るのも有効です。
血圧について、数値的基準、危険さ、予防対策についてお伝えしました。血圧は、産業医が健診結果を確認していても一番気になる項目です。なぜなら死につながる血管疾患を起こす危険な状態であり、仕事のストレスや長時間労働による生活の乱れが直に影響する障害だからです。生活習慣を見直して健康に働いていただけることを祈っております。