従業員 各位
日頃のご精勤に心より感謝申し上げます。
12月度の衛生委員会の資料になります。
12月度のテーマは「ノロウィルスについて」です。
皆様に置かれましては、是非とも健康に留意いただき、
業務に努めていただきたいと考えております。
ご安全に!!
2023年12月度
衛生委員会資料
産業医 北村 香奈
侮ってはいけません、今年のノロウィルス!というのも、
福岡市によりますと16日、園児1人に嘔吐の症状が出て、その後、複数の園児と職員に嘔吐と下痢の症状が出ました。24日、施設から市に報告があり、行政検査の結果、27日、4人からノロウイルスが検出されました。 また、福岡市博多区の保育施設では園児10人、職員6人の計16人が嘔吐や下痢の症状を訴え、ノロウイルスによる感染性胃腸炎の集団発生とみられています。
などという記事を見かけたから、というのもありますが、コロナ禍で予防対策がしっかりしていたのと違う今年はノロウィルスにも気をつけた方がいいのでは、と思い、改めてノロウィルスについて取り上げることにしました。
<ノロウィルス基礎知識>
なにから感染する?
○ノロウイルスに汚染された食品(生カキ等の二枚貝類等)や飲料水
○ノロウイルスに汚染された手指、器具
○感染したヒトのふん便や嘔吐
感染したらどんな症状になる?
感染してから1日から2日で症状があらわれます。
主な症状は吐き気、嘔吐、下痢等で通常1日から2日で軽快します。
感染しても発症しない場合や、発症しても軽い風邪のような症状の場合もあります。
感染期間はどれぐらいな?
ノロウイルスは、症状がなくなっても1週間程度は便の中に出てくるので、二次感染しないよう注意が必要です。
感染したと思ったらどうしたらいい?
早めに医療機関を受診してください。
特に、抵抗力の弱い小さなお子様やお年寄りは重症化することもありますので、気をつけましょう。
ワクチンはあるの?
ノロウイルスにはワクチンはなく、治療は対症療法が中心になります。
そのため、感染しないための予防対策が重要です。
<最近の感染状況>
2006年はDenHaag2006bと呼ばれる遺伝子型GII.4に属する変異株、2015年はGII.17変異株が出現後大きな流行を起こし、食中毒事件も多発しました。
しかし、2017年以降は256件以下で推移し、少ない発生が続いています。
2020年は、1月~3月は85件が報告されましたが、4月以降はわずか14件に過ぎず、年間で99件の発生でした。
原因施設別にみると、ノロウイルス食中毒の多くは飲食店で発生しており、近年は飲食店での発生割合が増加傾向にあります。
ノロウイルスの流行は2017年以降低調な理由として以下の要因が考えられます。
①新型コロナウイルス対策がノロウイルス対策にも有効
国民の皆さんが日々実施されている手洗い、手指消毒、マスク着用、環境の消毒等がノロウイルス等の他の感染症対策にも有効に働いている。
②人流抑制に伴う感染機会の減少
新型コロナウイルス感染拡大防止のための人流抑制対策により、他のウイルスの感染機会も減少。
③飲食店の営業自粛等による外食の機会の減少
ノロウイルス食中毒の多くは飲食店で発生している。しかし、飲食店の営業自粛に伴い、飲食店での飲食機会や大人数での会食機会が大きく減少し、ノロウイルス食中毒が減少した。また、人流抑制による旅行の機会の減少に伴い、旅館等の利用も減少した。学校においても新型コロナウイルス対策として安全な給食のサービスが行われた。
④高齢者施設への面会機会の減少
高齢者施設でのノロウイルス集団発生は、従業員や面会者等、外部からの訪問者がウイルスを持ち込み発生することが多いとされている。高齢者は新型コロナウイルス感染により重篤化や死に至る危険性が高いことから、多くの施設で訪問者との面会は控えられた。このため、外部からノロウイルスが持ち込まれる危険性は低くなり、高齢者施設での集団発生は減少した。
⑤感染者の受診控え
医療機関での新型コロナウイルスの院内感染や外出による感染リスクを恐れて、感染者が医療機関の受診を控えた。特に、ノロウイルス感染では、一般に数日で回復し、有効な抗ウイルス剤もなく対処療法しかないなど、受診を控えることは想定される。
<今後について>
今後も同じような状況(感染者が少ない)が続いてほしいのですが、社会経済活動の活発化に伴い、人と人との交流や、海外からの渡航者は増え、多くの感染症の感染機会は増えてきます。
また、インフルエンザでも言われているように、流行が低調な状態が続くと、感染機会が減少するためヒトの免疫力が低下し、流行が起こりやすい状況になります。
ですから、感染症全般に対する基本の衛生対策に加え、
①調理前、トイレ使用後の手洗いを徹底する。
②食材の中心温度85℃~90℃で90秒間以上の加熱をする。
③調理器具やトイレ等の洗浄、消毒を行う。(次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度200〜500ppm))
④排せつ物、吐しゃ物等の処理時はマスクやゴム手袋を使用して処理し、周辺の消毒を行う。(次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度1000ppm))
⑤調理に携わる人は、定期的にノロウイルス検便を行う。
などのノロウィルス対策を思い出して徹底していただきたいと思います。
<余談>
よく言われる、「ノロウィルスにはエタノールが効かない」ということについて、以下のような情報がありました。
エタノールのウイルスへの作用機序としてはタンパク質の変性が考えられており、唾液や吐しゃ物などのタンパク質が豊富に存在するときや、手指に汚れが付着している状態でエタノール消毒をしても、それらに阻まれて十分な効果は出ません。また、ノンエンベロープウイルスであるノロウイルスやロタウイルスは表面が強固なタンパク質で覆われているためエタノールの効果は低下します。これらのことから、ノロウイルスやロタウイルスの消毒には主に次亜塩素酸ナトリウムが使用されます。
しかし、近年になりエタノールでも「クエン酸や重曹によりpHを中性からずらすことで次亜塩素酸ナトリウムと同等の効果が得られる」という報告1)がされており、次亜塩素酸を用いることができない場合の拭き取り対応としてノロパンチTMという製品も販売されています。第1選択としては次亜塩素酸ナトリウムとなりますが、次亜塩素酸ナトリウムは皮膚炎などの副作用もあることから代替品としてエタノールを用いた製品開発が進められています。