2023年4月度 衛生委員会からのお知らせ

従業員 各位

日頃のご精勤に心より感謝申し上げます。

4月度の衛生委員会の資料になります。

4月度のテーマは「消化器系のがん検診について」です。

皆様に置かれましては、是非とも健康に留意いただき、

業務に努めていただきたいと考えております。

ご安全に!!

2023年4月度

衛生委員会資料

産業医 北村 香奈

今回は、消化器系のがん検診についてお伝えしたいと思います。

普段健診結果をチェックさせていただいている中で、胃炎があるけどピロリ菌検査してるかな?便潜血出てるけど毎年引っかかるからと放置してないかな?と心配していますので、ぜひ検診の重要性を改めて理解していただきたいと思っています。

 

改めて、がん検診の目的ですが、がんを見つけることだけではありません。検診の対象となる人たち(集団)の死亡率を低下させることが、がん検診の目的です。
いくらがん発見率の高い検診を受けても、治療効果のないがんや、治療する必要のないがんがたくさん見つかるような場合は、死亡率低下の効果はありません。

 

これまでの研究によって、胃がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん、大腸がんの5つのがんは、それぞれ特定の方法で行う検診を受けることで早期に発見でき、さらに治療を行うことで死亡率が低下することが科学的に証明されています。
早期で見つけられれば、がんは決して怖い病気ではありません。
「精密検査が必要」と判定されたら早期がんを見つけられるチャンスと考え、自分のため、そして心配してくれる周りの人のためにも、精密検査を受けるようにしましょう。

 

科学的に有効と証明されたがん検診

(日本対がん協会より)

 

胃がん検診の方法

胃の検査法としてはバリウムを飲んで胃のX線写真を撮る「胃X線検査」と口または鼻から管を通して検査する「胃内視鏡検査」があります。この二つの検査法は胃そのものを診る検査法で、現在のところ胃がんを直接診断する方法として科学的根拠のもとに効果があるとして推奨されているのはこの二つの検査になります・

「胃X線検査」

胃自体はX線に映らないので胃の壁の状態をみるために、胃の壁にX線に移る物質(造影剤)を塗りつけて検査することになります。そこで、バリウムという造影剤と発泡剤(胃を膨らませる薬)を飲んでもらい、体を回転してもらいながら撮影することで、造影剤が映し出す胃の壁の状態を診ます。ここでがんを疑うなめらかでない所見が認められれば精密検査に進みますが、良性の病気であるポリープや潰瘍瘢痕も引っかかってきます。

X線の被曝を心配される方もいらっしゃいますが、最近はデジタル装置の開発により被曝量は大きく減少しています。検査1回あたりの被曝量は1年間に被曝する自然放射線量を大差なく健康に影響を与えるほどではないです。しかし、妊娠可能性のある女性は念のため受診していただけなくなっていますし、病気の罹患率の低い40歳未満では検診受診勧奨の対象から外されます。

「胃内視鏡検査」

細い管を口または鼻から挿入して管の先端位ある小型カメラで胃を中から観察する方法です。口からの挿入の場合、受ける前に胃の動きを止める鎮痙剤注射と喉の麻酔を行い、患者の希望があれば(もしくは病院によっては必ず)半睡眠状態で検査する為に鎮静剤を注射します。鼻からでは鎮痙剤はつかいますが喉の麻酔は行いません。ちなみに、鎮静剤を使うと本当に知らない間に検査は終わってしまっています。ただ、終了後しばらくぼーっとするのですぐには帰れません。

「胃の精密検査」

精密検査はほとんど胃内視鏡で行われます。より高精度の画像が得られるよう太い管を口から挿入し、画像拡大や色調調整なども行なってより詳しく診ていきます。また胃の組織を採取して病理学的検査を行なっていきます。

「胃がん検診のデメリット」

バリウムを使う場合、なかなか排出されず便秘になったりごくごく稀にはバリウムが詰まって腸に穴が開き緊急手術になることもあります。内視鏡検査では胃に空気を入れて内視鏡を操作し政権も行なったりする中で胃の粘膜に穴が開くこともごくごく稀にあり得ます。

「胃癌と診断されたら?」

現在では早期がんの大半は内視鏡で切り取るだけの治療で済むようになりました。内視鏡的粘膜剥離術(ESD)といいますが、この治療法に要する時間は数時間で、入院も1週間程度です。ESDでは切除困難な場合でも比較的早期であれば腹腔鏡を使って腹部に穴を開けて操作する術式で胃の切除ができます。腹腔鏡でも切除できない場合は開腹手術になります。進行がんでは切除後抗がん剤治療を行うことがあります。

「ピロリ菌」

胃という酸性の強いところでも生きられる特殊な細菌で、胃潰瘍や胃がん、リンパ腫などの原因となります。人人感染で起こり、家族内の感染が最も多いと言われています。ピロリ菌がいるとまずは胃粘膜の老化現象である萎縮を生じさせるので、萎縮性胃炎と診断された方は、ピロリ菌がいる可能性があるのでピロリ菌検査をお勧めします。

「ピロリ菌検査」

呼気、血液、便、尿の検査でピロリ菌検査ができます。内視鏡検査時に組織を採取して検査することもできます。ピロリ検査と除菌治療は保険診療が可能です。

「ピロリ菌治療」

除菌治療として、1種類の胃酸分泌抑制薬と、2種類の抗菌薬を同時に1日2回、7日間服用する方法があります。一度目で除菌が成功しなければ、二度目の除菌治療を行いますが、その際、2種類の抗菌薬の1種類を別の種類に変えて行います。二度目の治療でほとんどが除菌成功すると言われています。

 

大腸がん検診の方法

便潜血検査です。特殊な容器に2日分の便を取って目には見えない微量の血液が混じっていないか検査します。

この検査はがん検診の中でも最も確実な根拠があるとされています。しかし、すべての大腸がんを発見するとは言えません。人によっては浸潤性の大腸がん(顔が粘膜より深い層に及んでいるもの)は見つけにくいと考え便潜血検査は有効でない、と考える方もいるようですが、定期的に検診を受ければ浸潤性の大腸がんの約8割を見つけることができるとはされていますし、検診後に自覚症状等がきっかけとなって大腸がんが発見されても大腸がん検診を受けずに発見された大腸がんより治る割合が高い、という研究結果もあり、大腸がん検診は有効と言っていいと思われます。

「大腸がん検診の精密検査」

原則的に、大腸内視鏡検査を行います。前日から消化の良い食事をとって、下剤により便を完全に排出して準備してから、肛門から管を通して大腸を直接診ていく検査です。胃内視鏡と同様鎮静剤を使って行うこともできます。最近ではCTを用いた大腸検査も行われるようになっていますが、まだ被曝量や読影法などが統一されておらず今後標準化が必要な状況です。

「痔だから大丈夫?」

便潜血が陽性になっても大腸がんや大腸ポリープが見つからないこともあります。というのも、ごくわずかな出血は誰にでもあるからで、生理的出血と言われています。検査に出す便を多く取りすぎると陽性になりがちのようです。ただ、最初から生理的出血だと決めつけず、やはり便潜血陽性になれば精密検査を受けてください。よく、自分は痔だから大丈夫ですよね?と聞かれますが、痔と便潜血検査にはあまり関係がないと言われており、便潜血陽性であればやはり必ず精密検査を受けていただきたいです。

「大腸がんが見つかったら」

大腸がんは他のがんと比較しても極めて治る可能性が高いがんです。大腸がん検診で発見された大腸がんのうち48%は回復することなく内視鏡治療で済んでいることからも、安心してまずは精密検査を受けていただきたいと思います。

(参考:日本消化器がん検診学会)

 

最後に一言。胃がんも大腸がんも、飲酒と喫煙は原因として上がってきます。生活習慣を見直しつつ、必要な検診を毎年受けて、がんの予防、早期発見を心掛けてください。