2023年2月度 衛生委員会からのお知らせ

従業員 各位

日頃のご精勤に心より感謝申し上げます。

2月度の衛生委員会の資料になります。

2月度のテーマは「がん検診について」です。

皆様に置かれましては、是非とも健康に留意いただき、

業務に努めていただきたいと考えております。

ご安全に!!

2023年2月度

衛生委員会資料

産業医 北村 香奈

今回は、がん検診についてお話ししたいと思います。

がん、と聞くとやはり怖い、嫌だな、という気持ちになられると思いますが、国立がんセンターがん対策情報センターの推計によると、一生涯のうちに何らかのがんになる割合は、男性で49%、女性で37%とされており、日本人男性の二人に一人、女性の三人に一人ががんになるということになりますので、恐れるばかりでなく、がん予防の健康的な生活も大事ですし、罹患してしまったら早く見つけて早く治療することが大事です。そこで、そのための方法としてのがん検診について皆さんに理解していただきたいと思います。

 

健診と検診

がん検診の検診と健康診断を略して言う健診、同じ「けんしん」ですがその違い、意識したことはありますか?

 

健診:健康かどうか・病気の危険因子があるか否かを確かめること。

検診:ある特定の病気にかかっているかどうかを調べるために診察・検査を行うこと。

 

検診は、特定の病気を早期に発見して早期に治療する事を目的としています。
「がん検診」が検診の代表例ですが、その他にも骨粗鬆症検診や肝炎ウイルス検診などもあります。

 

がん検診の種類:対策型検診   任意型検診

 

対策型検診は、がん死亡率の減少を目的として、有効性が確立された検査方法で実施されます。公的な予防対策として行われる検診のため、費用は無料か少額の自己負担で済みます。市区町村のほか、職域・医療保険者等の保健事業として行っているケースもあります。

 

任意型検診は医療機関などが任意で提供する医療サービスです。基本的には全額自己負担です。様々な検診方法があり、その中には有効性の確立していない検査方法が含まれる場合もありますが、自分の目的や好みに合わせて検診を選択できるという利点もあります。

 

 

対策型検診

任意型検診

目的

対象集団全体の死亡率を下げる

個人の死亡リスクを下げる

概要

予防対策として行われる公共的な医療サービス

医療機関・検診機関などが任意で提供する医療サービス

費用

無料。一部、少額を自己負担する検診もある

全額自己負担

検診例

住民健診、職域検診

人間ドック、がんスクリーニング検査

 

 

 

がん検診のメリット

 

検診は自覚症状が無い時点で行われることから、がんが進行していない状態で発見することが出来ます。がんが不治の病と言われたのは昔の事で、現在では早期発見、早期治療でがんはその多くが治ります。
一方、症状を感じて受診した場合には、がんが進行している可能性もあり、臓器によっては治すことができない場合が多くなります。

がん検診では、がんになる前の病変が発見されることもあります。子宮頸部異型上皮、大腸腺腫(ポリープ)等の前がん病変は、それを治療することでがんになることを防ぐことができます。

 

がん検診のデメリット:偽陰性 偽陽性 過剰診断

偽陰性」とは、がんを見逃してしまう事です。
がんが見つけにくい場所や形をしている場合には発見できない事があり、検査の精度は100%ではありません。ただし、初回の検診でがんと診断できなかった場合でも、毎回(肺がん・大腸がん検診は1年に1回、胃がん・子宮頸がん・乳がん検診は2年に1回)検診を受け続けることにより、がんを発見できる確率は高まり、がんによる死亡を回避する可能性も高くなります。このため、がん検診は単発の受診ではなく、適切な間隔で受け続けることが必要です。

 

偽陽性」とは、検診でがんの疑いがと判定されて精密検査を行っても、がんが発見されないことを指します。
精密検査が必要となるのは、がんの疑いを除外するためと、がんであることを確かめるための2つの意味があります。要精密検査とされた場合でも、真にがんと判断される(陽性反応適中度)のは、胃がん検診では1.50%、最も可能性のある乳がん検診でも4.15%にすぎません。むしろ、多くの人々が「がんではなかった」という結果を受け取ることになります。その間、受診者の方に心理的負担がかかりますが、早期発見、早期治療のためにはある程度やむをえないことではないかとも思います。

 

過剰診断」とは、生命を脅かさないがんを発見することです。
がん検診で発見されたがんの中には進行がんにならずに消えてしまったり、そのままの状況に留まったりするため、生命を脅かすことがないものもあります。現在の医療では、どのようながんが進行がんとなるのか、生命予後に影響を及ぼすかはわかっていません。早期治療を考えると、このようながんにも通常のがんと同じような検査や治療が行われるケースがあります。

 

デメリットも理解していただきたいですが、初期のがんでは症状が出ない場合も多く、検診で発見された場合と、自覚症状などがあり受診して発見された場合とでは、5年後の生存率に大きな差があります。早期発見できた場合の5年生存率※(診断してから5年間生存している割合)は、大腸がん99.0%、子宮頸がん92.3%、子宮体がん94.9%、乳がん99.9です。 がんの早期発見には、がん検診を毎年(子宮がんと乳がんは2年に1回)受けることがやはり大切なのです。メリット・デメリットについて理解いただいた上で、正しく検診を受けていただければと思います。

 

 

今回は、がん検診の中でも子宮がん検診についてさらにお伝えしたいと思います。

子宮は西洋梨を逆さにしたような形をしており、上部のふくらんだ部分を体部、下の部分を頸部と呼んでいます。体部にできるがんを「体がん」、頸部にできるがんを「頸がん」といいます。

子宮頸がんは、子宮の入り口(子宮頸部)にできるがんです。子宮頸部は、性行為や出産などで刺激を受けやすい場所です。HPV感染により正常の細胞はダメージを受け、その結果、一部の人では頸部の細胞が異常な変化を起こして異形成という病変になります。多くは正常に戻りますが、そのなかの一部はがんへと進むことがわかっています(下図)。若い女性でも、子宮頸部の細胞がダメージを受ければ子宮頸がんにかかる可能性があります。

子宮頚がんになりやすい原因は??

細胞にダメージをあたえ、子宮頸がんと関連の深い因子は、HPV(ヒトパピローマウイルス)というウイルスです。HPVは性交によって感染し、セックスパートナーの多い女性や、性行動の盛んな男性をパートナーにもつ女性は感染の危険度が高いとされています。子宮頸がん細胞は、原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染から510年以上かかって増殖するといわれています。

その他にも子宮頸がんになりやすいとされる因子があり、それらとともに発癌リスクの高いHPVに感染している場合は、頸がんの発症率が高くなると言われています。

HPVって??

子宮頸がんはHuman PapillomavirusHPV)による感染が原因と言われています。大部分が性交渉により感染するウイルスですが、一般的に言う性感染症と異なり、性生活がある場合には誰もが生涯に一度は感染すると言われています。
HPV
100種類以上の型があることがわかっており、このうち子宮頸がんに関与するハイリスクHPV1314種類ほどで、発癌の危険度に差があります。 HPV感染の大部分は2年以内に自然治癒しますが、たまたまハイリスクのHPV16,18型など)に長期持続感染すると、がんの前段階を経て、子宮頸がんが発症しやすくなります。

HPV以外に子宮頸がんになりやすい因子としては、
(1)初交年齢が若い(2)セックスパートナーが多い(3)多産(4)喫煙者
(5)ビタミンA、Cの少ない食事(6)経口避妊薬(ピル)の長期服用者(7)免疫系の低下
などがあります。

HPV、女性だけが持っているわけではありません。男性も性の経験がある90%以上がHPVに感染する可能性があります。 遺伝子型がハイリスクHPVの場合は癌になりやすく、男性は陰茎部の感染で陰茎癌が進行する可能性があります。 また、遺伝子型がローリスクHPVの症状では、性器・尿道・膣・肛門などにイボ(尖圭コンジローマ)が現れる可能性があります。

過度の飲酒や喫煙が原因の中咽頭がんは中高年の男性に多くみられますが、HPV関連の中咽頭がんは、若い人や女性でも増加傾向にあります。もはやHPV関連中咽頭がんは、誰にとっても他人事ではない病気のひとつといえるでしょう。最近では日本人の実に約5%が、咽頭(のど)からHPVが検出されたとの報告もあります 

 

子宮がん検診の基本情報

・子宮頸がん検診の対象者

20歳以上

・受診間隔

隔年(2年に1回)

・主な検診内容

問診、視診、細胞診、内診、コルポスコープ検査(必要に応じて)

・子宮頸がん検診を受けられる場所と問合せ先

地方自治体(都道府県、市町村、特別区)    保健所(ホームページ、電話)

・子宮頸がん検診の検査結果

検査結果は、検査後10日~1カ月ほどで主に文書で通知されます。

 

子宮頸がん検診の具体的な流れ

 

子宮頸がんの一次検診では、一般的に「子宮頸部細胞診」を行っています。

この方法は、「一定の集団の子宮頸がんによる死亡率を減少させる」という検診の目的に合致すると科学的に証明され、実施することが勧められています。

一般的な子宮頸がん検診の内容

問診(現状の病状、既往歴、家族歴、過去の検診の受診状況等)   視診 内診 子宮頚部細胞診 

HPV検査・コルポスコープ検査 (必要に応じて)

子宮頚がん検診を受ける前の注意

正しい検査結果を得るためにも生理中は避けた方がよいでしょう。また、腟内洗浄は細胞が洗い流されることがありますので避けてください。検診前、日常生活で特に注意することはありません。

子宮体がんは不正性器出血があることが多いのですが、子宮頸がんの初期は自覚症状がないことが多く、検診を受けてはじめて発見されるケースがほとんどです。ですから、症状がなくても検診を受けることが大切です。また、不正性器出血がある、おりものに異変があるなど、いつもと違った様子があったら、すぐに婦人科を受診しましょう。

 

精密検査=「子宮がん」と診断されたわけではありません。がんは23%ほどで、ほとんどが良性か前がん病変の段階でみつかっています。まずは、ご自身の病変の有無を確認するためにも精密検査と言われたら必ず受診しましょう。

検診時の細胞診で頸部に異常細胞がみられ精査となった場合は、腟拡大鏡で気になる病変部分を鉗子でつまみ採る検査をします(組織診)。HPV DNA検査も行い、ハイリスクHPVかどうかの確認もします。(組織検査の後、少量の出血がありますが、通常は23日で止まります)

 

 

 

補足:HPVワクチンについて

 

HPVワクチンは、平成254月から定期接種ワクチン(決められた年齢では無料で接種を受けることができるもの)となっており、ご希望があれば医療機関で接種を受けることができます。1216歳の女子であれば、3回の接種はすべて無料です。しかし、平成25年に厚生労働省の通知により、HPVワクチンの積極的勧奨を差し控えることになりました。その後、HPVワクチンの有効性と安全性が証明され、接種体制の整備が行われたことから、令和311月、この平成25年の勧奨差し控えの通知を「終了させる」ことが決定しました。
これによって、HPVワクチンは、定期接種ワクチンであるとともに1216歳の女子に国として接種をお勧めすることが再開されることになりました。また、平成25年から8年間ワクチン接種の勧奨を差し控えしていたために接種できなかった女性(H9年度生まれ〜平成17年度生まれ)に公費で接種する(キャッチアップ接種といいます)ことができるようになりました。(この期間は令和4年4月から令和7年3月までです)
なお、海外では男子への定期接種を開始している国もありますが、日本では男子はまだ対象になっていません。今後、男子への定期接種が導入されることが期待されます。

(2価、4価、9価とあるワクチンの中で、4価ワクチンは9歳以上の男子でも接種を受けることが承認され、9価ワクチンは9歳以上の女子の接種が承認されています。ただし、これらの接種は全額自己負担となります)

 

HPVワクチン接種を定期接種の対象年齢(1216歳)で受けることができなかった人でも、その後にワクチンを接種することによって一定の効果が得られると報告されています。スウェーデンからの報告では、17歳以前に接種を受けた女性では88%の子宮頸がんの減少、1730歳で接種を受けた女性でも53%の減少を認めていました。1730歳では17歳以前に比べれば効果は低いものの、有効であると認められます。ワクチンの使用についての添付文書では、接種年齢の上限は書かれていませんが、海外の報告では、45歳までの接種はHPVワクチンの効果が認められており、アメリカでは女性に対して26歳までの接種を推奨しています。(日本婦人科腫瘍学会より)

 

なお、ワクチンの効果というのは、ワクチン接種を受けなかった女性と比べて、接種を受けた女性では前がん病変である中等度異形成(CIN2)以上の発生が減少したという意味です。ワクチン接種はHPV感染の治療にはなりません。ワクチン接種以前にHPVに感染してしまっている場合(性交渉をしている)は、異形成などが発生する可能性があります。

ワクチン接種による副反応

HPVワクチン接種後の女子に見られた広範な慢性の体の痛みや運動障害を中心とする様々な症状がメディアで繰り返し報道されました。その後の調査により、HPVワクチンそのものが原因となった可能性は否定的と考えられ、また、これまでに報告されている重い症状がすべて副反応であると仮定しても、その確率はHPVワクチンを1万回接種した場合に1件以下の頻度であり、極めてまれと言えます。
ただし、これらの症状がすべて副反応である可能性が否定されたわけではなく、接種に伴う痛みや接種前後のストレスが、このような症状を引き起こすきっかけになることもあると考えられています。注射部位の一時的な痛み・腫れなどの局所症状は約8割以上の方に生じるとされています。また、注射時の痛みや不安のために失神(迷走神経反射)を起こした事例が報告されていますが、これについては接種直後30分程度安静にすることで対応が可能接種後に心配な症状がある場合には、まず、接種を受けた医療機関を受診してください。

 

子宮がん検診とHPVワクチンについて、女性に限らず男性の体を守るためにも必要な知識としてお伝えしました。見つかったら怖い、ワクチンは怖い、なんて思わず、がん検診を定期的に受けていただき、受けられる方はHPVワクチンもぜひ検討いただいて、がん発症、進行、を防いでいただきたいと思います。