2022年5月度 衛生委員会からのお知らせ

従業員 各位

日頃のご精勤に心より感謝申し上げます。

5月度の衛生委員会の資料になります。

5月度のテーマは「月経困難症」です。

皆様に置かれましては、是非とも健康に留意いただき、

業務に努めていただきたいと考えております。

ご安全に!!

2022年5月度 

衛生委員会資料

産業医 北村 香奈

 

今回は、女性が抱える問題である「月経困難症」についてお伝えしたいと思います。

男性の方には直接的には関係のないことかもしれませんが、周りで働く女性、または家族の困難感を理解していただく機会になれば、と思います。

 

月経困難症

生理(月経)の期間に起こるお腹や腰の痛みなど不快な症状を生理痛(月経痛)といいます。これは月経血を子宮から体外に排出する過程で痛みが起こります。この痛みによって日常生活に支障をきたす場合、月経困難症といって治療の対象となります。

症状は下腹痛や腰痛以外にも、お腹が張った感じや吐き気、食欲の低下、下痢、頭痛のほか、疲労感や脱力感、めまい、動悸、いらいらや憂うつ感、不安感など精神症状を伴うことも多くあります。主な原因は子宮の中(内膜)から出されるプロスタグランディン(PG)という物質がさまざまな臓器の平滑筋という筋肉を収縮されることです。月経痛があるということは、卵巣からきちんと女性ホルモンが分泌され排卵が起きている証でもあります。無排卵性の月経では通常月経困難症はみられません。症状の原因として他には、毎月20-140cc月経血として排出されることによる鉄欠乏の影響があります。

 

月経困難症の原因として二つに大きく分類されますので詳しく説明していきます。

機能性月経困難症(原因疾患がない)

初経後12年から始まることが多いといわれます。
原因疾患がないことから「原発性月経困難症」ともいわれます。
月経困難症を訴える人の4割以上を占めます。

器質性月経困難症(原因疾患がある)

原因疾患があるために起こる月経困難症を「器質性月経困難症」といいます。または原因疾患に続いて起こる事から「続発性月経困難症」ともいわれます。初経後5年以上経過してから発症することが多いといわれます。
原因となる疾患は下記の通りで、これらの疾患を複数合併しているケースも珍しくありません。

 

① 子宮内膜症 誤解されがちですが、これは子宮でおこる病気ではなく、子宮の外でおこる病気です。
子宮内膜症とは、骨盤内や卵巣など子宮以外の場所で子宮内膜のような組織が増殖する病気です。増殖した組織は子宮内膜と同じように、月経がくると崩れて出血を起こします。本来の子宮内膜は出血とともに腟を通ってカラダの外へ出されますが、子宮以外の場所で増殖してしまった組織には出口がないため、お腹の中にたまって炎症を起こし、激しい痛みなどの症状を引き起こします。子宮内膜症の患者の8割以上の方に月経困難症が認められるといわれています。

 

子宮腺筋症 昔は子宮内膜症のひとつと思われていましたが、今では別の病気とされています。
子宮腺筋症とは、子宮内膜が子宮の筋肉の層にもぐりこみ増殖する病気です。
その組織が増殖を繰り返すとまわりの筋肉がかたくなり、子宮の壁もどんどん厚くなって、やがて子宮全体が大きくふくらんでいきます。
症状としては、激しい痛みにくわえ、出血量も増えることから貧血になることもあります。

 

子宮筋腫 子宮筋腫とは、子宮の壁を形づくっている筋肉の一部が異常に増殖し、こぶ(良性の腫瘍)ができる病気です。はっきりとした原因はまだ分かっていませんが、子宮の筋肉の中にできた腫瘍の芽が、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンの刺激を受け、長い時間をかけて成長すると考えられています。
腫瘍が大きくなるにつれ、出血時にレバーのような血のかたまりが混じって出てくるのが特徴です。

 

原因は?

プロスタグランジンの過剰分泌 子宮の内側ではがれ落ちた子宮内膜をカラダの外に出すために子宮を収縮させるプロスタグランジン(出産のとき、陣痛をおこす作用もあります)という物質が出てきます。これが過剰に分泌された結果、子宮が収縮しすぎて子宮の血流が悪くなり、結果、痛みが起こるとされています。

 

子宮口が狭い 若い方や出産経験のない方は子宮と腟をつなぐ部分が狭くてかたいためスムースに月経血を送り出せずに痛みが起こります。また子宮口が狭いことから月経血が逆流して卵管を通って骨盤内に流れ込み、月経血に含まれるプロスタグランジンによって痛みが出る事も考えられます。

 

心理的要因 「月経は痛い」「月経は嫌」「月経はうっとうしい」などの思い込みから起こることもあります。 また、ストレスが原因となることもあります。

 

運動不足や冷え 運動不足や冷房・薄着などにより血流を悪くすることも痛みを起こりやすくする、といわれています。

 

以上のことから。。。対処方法としては、月経時のお腹や腰の保温、十分な栄養摂取や睡眠などリラックスできる環境を整えることは有効です。この時期に仕事の量的質的負荷がかかると良くないことをご理解ください。

治療としては一般的には痛み止め(非ステロイド系消炎鎮痛剤)の服用があります。痛みの原因物質であるPG合成阻害剤のため有効ですが、痛み強くなってからの服用では効果が少なく、また吐き気などがある場合はそもそも服薬できません。基礎体温表などを用いてご自身の月経周期と症状をともに記録しておくとよいでしょう。通常28日周期で月経が来ますので、月経開始予定日から1日3回など定時での服用が効果的です。ただし、月経痛の恐怖から過剰に鎮痛剤を服用してしまうと、胃潰瘍ができたり、薬をのむことでさらに痛みが出てしまう「薬物乱用性頭痛」を引き起こしたりすることがあり注意が必要です。毎月つらい月経痛がある場合は、是非、産婦人科を受診してみて下さい。子宮や卵巣などに病気がないか確認して、ピルや漢方薬など痛み止め以外の治療法も提供いたします。ピルの一部の製剤は、月経困難症に対する治療薬としてLEP(low dose estrogen progestin)製剤として保険適用薬となっています。痛みの緩和だけでなく、月経日をずらすことも容易となり大事な試験や仕事への支障も軽減できます。また月経量を少なくすることで貧血も改善できます。エストロゲン剤が服用出来ない方は、黄体ホルモンのみのジェノゲストもあります。LEP製剤もジェノゲストもともに子宮内膜症の治療にも使われます。

 

どれくらいの人がこの病気になっているか?

 

過去に20-34歳の女性2万人を対象にwebアンケート調査を実施したところ、日頃悩まされている症状として「月経痛」を訴えた方は8,148人(40.7%)でした。総務省統計局が平成25722日付で報告した人口統計によると、我が国の2034歳の女性の人口は1,046万人とのことですので、この比率を全国に当てはめると400万人強の2034歳の女性が月経痛に悩んでいるという事になります。

    

上記アンケート対象者の中で、月経痛が毎月もしくは23か月に1回以上あり、それが悩みであると訴えた2034歳女性2,000人を対象に調査した結果、月経痛のために現在受診していると回答したのは、わずか14%で、過去に受診したが現在は受診していないという回答が26%でした。

次に、これだけの女性が苦しんでいる月経困難症の仕事への影響について考えていきたいと思います。

日経総合研究所の調査結果から以下のことがわかりました。(生理の不快な症状がある、働く女性(1849歳)を対象にインターネット調査を実施し、1956人の有効回答を得ました)

 

1.生理の影響で75%の人が「仕事の効率低下」を感じ、1回の生理で平均4.85日、年間で約60日影響を受けている。仕事の生産性は64%に低下

2.生理休暇の利用率は1割未満。5割以上の人が「職場は生理についての理解がない」と感じている3.女性社員は会社に「治療支援」と「生理についての理解を深める研修」を求めている

4.治療して症状が軽減している人は、症状を我慢している人と比べ、仕事への意欲などが高い

5.テレワークの頻度が増えると、症状による仕事への影響が軽減される

6.「知識不足」と「生理の格差問題」の改善が受診促進のカギと考えられる。

 

✓生理に伴う不快な症状があっても医療機関を利用していない人の理由として、症状が強い人でも55%の人が「病院に行くほどの症状でないと思うから」と答えており、思い込みや知識不足が婦人科受診の障壁になっている。

✓「不快な症状を軽減するための対策」について「特に教育を受けたことがない」と答えた人が8割にのぼった。

✓従業員数9人以下の企業に勤める人とフリーランスの人は 「お金がかかるから」「不快な症状を治療できると知らなかった」と回答する比率が高く、格差が生じていた。

✓医療機関を受診した人にきっかけを聞いたところ、「不調を感じ、自分の意思で」が63.1%でトップ、2位は「健康診断などの結果から」が22.5%だった。

✓医療機関を受診し、薬を処方された人の中で、最も効果が感じられた治療法は「低用量ピル」だった。「症状が出なくなった」約3割の人を含め、約7割が「症状がほぼ改善した」と回答している。

 

▼生理に伴う不調について知識が不足しているため、ひどい生理痛は「月経困難症」という病気であることや、生理痛や過多月経の原因が「子宮内膜症」や「子宮筋腫」などの婦人科系疾患である可能性について、正しく理解されていないと考えられます。

▼「不調を感じ、自分の意思で」医療機関を受診したときには、症状が進行・悪化していることが懸念されます。「健康診断などの結果から」が2位に挙がっている通り、健康診断は受診促進に有用です。ただ現状の一般的な 健康診断では、「生理の頻度」や「痛み」についてはあまりチェックされません。健康診断に婦人科の問診項目を入れ、月経異常を早期に発見する仕組みを整えれば、受診促進のより強い後押しになりそうです。特に若年層は人間ドックなどの検診の機会が少ないため、まずは勤務先が1回だけでも婦人科検診の機会を補助することが、受診や治療のきっかけになります。また受診機会を増やすためには、希望者が検診受診を選択する方式(オプトイン)でなく、希望しない人は拒否できる方式(オプトアウト)にすることも検討すべきポイントでしょう。

 

✓「治療して症状が軽減している」人は、「症状が強いのに 治療せず我慢している」人よりも「ずっと働き続けたい」という意欲が高いことがわかった。

✓同様に「キャリアアップしていきたい」という意欲も高いという結果も得らた。さらに、昇格・昇進試験や海外赴任への意欲が約2倍、複数の人が関わるプロジェクトでリーダーを務めた経験率も高いという結果になった。

▼治療して症状が軽減すると、リーダーとしての活躍や、仕事に対して前向きになる可能性が高まると考えられる。

 

この結果を、女性の皆さん、また会社の皆さんはどう受け取られるでしょうか。

女性の皆さんは正しい知識を持ちセルフケアすることで、さらに、企業としても正しい知識から必要なサポートをしていくことで、女性の能力を最大限活かせるようにしていくことが重要であることをご理解いただければと思います。