従業員 各位
日頃のご精勤に心より感謝申し上げます。
10月度の衛生委員会の資料になります。
10月度のテーマは「季節性うつ病」です。
皆様に置かれましては、是非とも健康に留意いただき、
業務に努めていただきたいと考えております。
ご安全に!!
2024年10月度
衛生委員会資料
産業医 北村 香奈
ようやく、めちゃくちゃ暑い!からは解放されそうな気候になってきましたね。そんな時に用心しないといけないのが、夏の疲れが後になって現れる夏バテ症状と、精神に影響が現れる「秋うつ」です。今回は、精神の方の「秋うつ」についてお伝えしたいと思います。
春や梅雨、夏に起こるうつ病も存在する!
季節性のうつ病、というのはお聞きになったことがあると思います。冬に繰り返す冬季うつ病がもっとも典型的ですが、冬以外の季節にだけうつ病が発生するパターンも多く存在します。これは冬以外でも毎年決まった季節に悲しみが増す傾向がある人がいるということです。
例えば、春は仕事や学校の変化など社会環境の変化が原因となりうつ病にかかる人が多くなります。梅雨には湿度が高まり不快感が増すこと、気圧の変化、雨による日照時間の低下などが原因でうつ病を発症してしまう人もいます。そして夏は強い日差しや暑さが直接的な原因となり、日焼けや冷房の効きすぎ、睡眠リズムの崩れなどによってうつ病を発症しやすくなることが考えられます。秋に入る頃には5人に1人は「秋うつ」になるとも言われています。秋うつは、夏から秋にかけて日照時間がだんだんと短くなり、気候が変化すると同時に、体調を崩す、季節の変わり目病です。
季節性うつ病に罹りやすい人
他の型のうつ病と同様、季節性うつ病は妊娠可能な年齢の女性に最も多く見られます。女性の方が男性より約3倍罹りやすいといわれています。
また、病態に日照が関わるため、赤道近くに住む人が罹ることは少なく、赤道から離れるほど患うリスクは高まります。英国では100人に3人が深刻な季節性うつ病に悩まされています。
季節性うつ病の原因
季節性うつ病は、冬場の日照時間不足が原因であると考えられています。特に、現代の生活では屋内で過ごすことが多く、日光に当たる時間が少なくなっています。
光が不足すると脳内でセロトニンの分泌が減り、そのためにやる気がなくなるなどの症状が見られ、うつ病になりやすくなると考えられています。
季節性うつ病の症状
季節性うつ病では、①過眠、②過食、③体重増加といった典型的なうつ病とは異なる症状が多く、精神面でも「意欲低下や思考が進まない」「倦怠感がある」などの抑制症状の方が、憂うつ感などの抑うつ症状よりも目立つことがあります。
睡眠時間の増加については夜の睡眠時間の延長と日中の眠気の増加が同時に起こること、食欲亢進については炭水化物に対して特徴的で、白米やパン、パスタの他にチョコレートなどの菓子類を好み、午後から夜にかけて増強するといわれます。そのため、季節性うつ病はまるで冬眠している様子にも似ていると表現されることがあります。
少ないですが夏季に抑うつエピソードを反復するタイプの症例もあります。しかし、その症状は食欲減退や抑うつ気分が多く、通常のうつ病の症状に近いようです。
<基本の抑うつ症状>
- 気分の落ち込み、悲しい、さみしい気持ち
- 以前は楽しんでいた趣味や活動への興味を失い、楽しめない
- 不眠や過眠
- 食欲や体重の異変
- 不安と焦燥感(イライラ感)
- 倦怠感や意欲・気力の減退
- 絶望感・無価値観・罪責感
- 思考力・集中力・決断力の低下
- 死のことを考える、自殺願望を抱く
<秋冬型の季節性うつ病に特徴的な症状>
- 過食・体重増加、炭水化物飢餓(甘い物などが食べたくなる)
- 過眠(睡眠の長時間化・過度な日中の眠気)
- 極度の疲労・倦怠感
- 社会からの離脱(冬眠のような気分)
季節性うつ病の治療法
季節性うつ病(冬季うつ病)には他のうつ病とは異なり“日照時間不足”という要因が判明しているため、季節性うつ病特有の治療法があります。
光療法
ライトボックス(人工光)を使用して、冬季の日照不足を補う方法です。これは1~2時間程度、2,500~10,000ルクスの高照度の光を照射するというものです。照射される光は太陽光に似ていますが、紫外線は出ないので肌や目に害がありません。
①照度が高ければ1回の照射時間を短くしても効果がある、②照度と抗うつ効果には正の相関がある、ことが確認されています。治療の効果は比較的早く認められることもあり、この療法が有効である場合は、多くの人が最初の1週間で症状の改善を実感します。
中断すると再発する可能性が高いので、冬季の間は連日行なうほうがよいとされます。光療法の副作用として、人によって頭痛や吐き気、目のかすみなどの症状が出ますが、ライトボックスからの距離を長めにすることで、これらの症状は軽くなります。
また、光目覚まし時計も治療に使われます。起床時刻の約1時間前にライトがほんのり点灯し、それが徐々に明るくなっていき、人工的に夜明けのような状態を作ります。起きるのがつらい冬の朝に特に効果があります。
その他、デスクワークをする人のための卓上ライトスタンドや野球帽のような形をしていて、つばの裏についた小さなライトで目に光を照射するライトバイザーなどがあります。患者さん一人一人に合った方法で日照不足を補うことで治療を試みます。
薬物療法
季節性うつ病の治療には一般的に抗うつ薬が有効です。疲労感や眠気が増す薬は避けるべきなので、比較的副作用の少ないSSRIという種類の抗うつ薬が主に使われています。季節性うつ病の場合、秋に抗うつ薬を飲み始め、春になったらやめるのが一般的です。
認知行動療法
季節性うつ病の治療と再発防止には、認知行動療法が効果的であるとする研究結果もあります。認知行動療法とは、自分自身の行動や考え方の偏りをなくして、社会性を身につけていくための訓練の方法です。グループで実践されることや個人で行われることもあります。症状の改善を目指して、医師とともに取り組んで行きます。
季節性うつ病の予防法
太陽の光を浴びる
日照時間の短い時期にはできるだけ屋外に出て、日光に当たりましょう。先にも述べたように季節性うつ病の原因は日照不足と考えられています。特に冬には会社や家など室内にいる時間が長いとほとんど日に当たらなくなってしまうので意識的に外に出て太陽の光を浴びることは効果的です。また、午前中に起床してすぐ自然の光に当たることが難しい場合は、自宅や仕事場の照明を明るいものに取り替えることも予防策となります。
バランスの良い食事をとる
脳内物質であるセロトニンが不足すると、うつ症状を引き起こすと考えられています。
炭水化物摂取による血糖値の上昇やインスリン分泌促進は、必須アミノ酸の一種であるトリプトファンの脳内への取り込み増大とセロトニン濃度の上昇を引き起こすので、秋うつ症状の「過食」はセロトニン神経機構の低下を補償するためと考えられます。
炭水化物を含む糖類の過剰摂取は逆にうつを悪化させるとも言われているので、セロトニンの原料となるトリプトファンを含む食品を意識的に摂取しましょう。
<トリプトファンを含む食品> 肉類・大豆製品・乳製品・バナナ・アーモンド・ゴマ
秋うつについて、ご理解いただけたでしょうか?いわゆるうつ病と違って、季節の環境変化要因が大きいので、ストレスはそんなにないのになんだかうつっぽい、という感じがした時は、早めに心療内科を受診し医師に相談してみてください。もちろん、その前にご自身でしっかり日光を浴びてバランスの良い食事を取り、予防していただければと思います。